• Text / HIROKO MIZUNO
  • Photo / MOMOKO SHIMOTAI

湯を沸かして注ぐ、その時間を楽しめる鉄瓶。

高橋大益さん(鉄瓶工房髙橋)の鉄薬缶 黒丸

雫石町に工房を構える高橋大益さんの定番シリーズの一つ「鉄薬缶 黒丸」。スタンダードなデザインと手頃な容量で女性に人気のアイテムです。

¥35,640(税込)

かねへん(南部鉄器)

高橋大益さん(鉄瓶工房髙橋)のまるっこ鉄瓶

雫石町に工房を構える髙橋大益さんの定番シリーズの一つ「まるっこ鉄瓶」。柔らかなラインのデザインとやや少なめの容量が、女性に人気のアイテムです。

¥30,780(税込)

かねへん(南部鉄器)

[2016.08.17]

湯を注ぐ道具であること

鉉を持って傾けると、湯はすうっと一本の弧を描きドリッパーへと注がれていきます。鉄瓶でコーヒーを淹れる朝の数分は、忙しくなる一日への心地よい助走の時間。日常の道具として当たり前に気持ちよく使える、それが高橋大益さんの南部鉄瓶です。

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「”注ぐ道具“としての使い勝手を考えると、注ぎ口を繊細にしないと湯切りが悪いんですよ。鉄瓶づくりでいちばん重要なところだから、ひと手間かけてつくっています」。

注ぎ口を型から抜いたあとは丁寧にヤスリかけをして、できるだけ薄く仕上げます。工房勤めをしていた頃から変わらない作業だけれど、独立してからより時間をかけるようになったと大益さんは話します。それは、自分自身が使う側に立った時、湯筋が悪い注ぎ口に苛立ちを感じるから。湯の揺れは口の形状によっても異なり、同じようにつくっても一つひとつ違うため、出来上がった鉄瓶の注ぎ口は念入りにチェックするのだとか。

「南部鉄瓶はそれなりに値が張るものだし、ストレスを感じながら使いたくはないですよね」と笑います。

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002▲雫石の工房にて、髙橋大益さん。傍らのストーブにはもちろん鉄瓶が。

暮らしかたに合わせて、変えていく

もちろん、手間をかけるのは注ぎ口だけではありません。大益さんの鉄瓶の購入者は女性が多いこともあって、胴部の厚さを薄くして軽く仕上げるように心掛けています。一般的な南部鉄瓶の本体は厚さが2.5~3ミリ程度。薄くつくることで失敗する可能性も高まるのですが、「できるだけ2ミリに近づけたい」と大益さん。

急須のように蓋に穴をあけるのも、他の南部鉄瓶にはない特徴です。穴があることで、お湯を注ぐ時にゴボゴボっとしたり、湯がはねることが少なくなるのです。

「昔ながらの職人さんからは、穴を開けるのが邪道だと言われますが(笑)。穴を開けると、片手で湯を注いだ時に蓋をずらさなくてもお湯が出るんです」。

そもそも、盛岡でつくられる南部鉄瓶は茶の湯に使う茶釜がルーツ。1700年代の後半に流行していた煎茶流の土瓶をヒントに、茶釜を少しだけ小ぶりにして鉉と注ぎ口をつけたのが南部鉄瓶です。時代の用途に合わせてモノの形も進化してきたのですから、暮らし方によって使いやすく変えていくのは道具としての本分といえます。

003▲様々な形のつまみ部分の型。小鳥やカタツムリなど愛らしいものばかり。

紆余曲折しながらも、鉄器職人を選ぶ

大益さんが南部鉄器の世界に入ったのは、19歳の頃でした。ふと、新聞で南部鉄器職人の募集記事を見つけたのがきっかけ。ものづくりに深い興味はなかったけれど、他の人と違うことをやってみたい……そんな軽い気持ちでした。しかし、強い志があって就いた仕事でなかったせいか、2年ほどで辞めてしまったのだとか。

いったん業界を離れて会社勤めをしましたが、知人の何気ない一言で岩手を誇る伝統工芸に携わっていたことに気づきます。そして、悩んだあげく再び南部鉄器職人の世界へ戻ったそうです。

「盛岡市内の『(有)ナルセ』(三巌堂)で11年ほど働きました。基本の商品アイテムはありましたが、ある程度自分で自由にやらせてもらえる環境があったので、楽しかったですね」。

店舗販売と県外での展示会販売を中心にしていた同工房で、大益さんは焼き型による鉄瓶づくりを担当していました。

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005▲この日はつまみ部分を製作。納得いくまで、ひとつひとつ手づくり。

鉄瓶デビューにぴったりの一品

そして2010年に独立し、現在は雫石町の自然豊かな場所に小さな工房を構えています。時間が許すギリギリまで納得いくよう仕上げるのは、自身の工房印を押して売ることに対する責任もありますが、同時に「一人で全ての行程を完結できる」喜びでもあります。

「文様押しをもっとやりたいんですよね。シンプルな鉄瓶もいいですが、昔ながらの伝統的な鉄瓶もつくってみたい。会社勤めした時代に学んだベースはありますが、指先が繊細な感覚を持つ今、技術をもっと磨いて自分に貯金していかなくては。その積み重ねが60代・70代で活かせる素地になっていくのではないかと思っています」。

温厚そうな佇まいの奥にのぞく職人の顔は、まさに、柔軟に形を変えながらもどっしりと構える鉄のようでもあります。

蓋のツマミのデザインを鉄瓶の形状に合わせて変えたり、時に鉉を固定せず倒せるように工夫したり……。探求心と幅のある遊び心から生まれる大益さんの鉄瓶は、バリエーションも豊富で最少サイズは0.7リットルから。中でも、人気の「まるっこ鉄瓶」1.2リットル「鉄薬缶 黒丸」1.5リットルは、鉄瓶デビューの一品としてお勧めです。

006▲使い込まれて味が出て来た「黒丸」。湯がまろやかに美味しくなります。

関連トピックス: 「まるっこ鉄瓶」「鉄薬缶 黒丸」、取扱開始のお知らせ

  • 高橋大益さん  / 

    森のてつびん屋鉄瓶工房髙橋

  • 1971年花巻市生まれ。19歳で南部鉄器工房に就職するも2年間で挫折し、会社員として5年勤務。その後、再び南部鉄器工房で11年間修業を重ねて2010年に独立。岩手県雫石町に「鉄瓶工房髙橋」を構える。全国伝統的工芸品展 新人賞・伝統工芸士会会長賞他。

info@tetsubinya.com

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