• Text / HIROKO MIZUNO
  • Photo / MOMOKO SHIMOTAI

朝のミルクも、午後3時の珈琲にも。

髙橋昌子さん(クラフトマンスタジオ冬扇)のマグカップ「丸い月」

大迫町の「クラフトマンスタジオ冬扇」による毎日使える磁器のカップです。

¥2,678(税込)

つちへん(日々のうつわ)

[2017.05.16]

白と青のあいだにあるもの。

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口元へ傾けたとき、丸みにかすかな揺らぎを携える円。磁器ならではの薄い仕上がりが生む優しい口あたり。底に向かってぽったりと安定感ある形状。そして、持ち上げた時の軽さ。「丸い月」と名付けられた、このマグカップをつくるのは「クラフトマンスタジオ冬扇」という名で磁器の器づくりをする髙橋昌子さんです。

そこに真っ白なミルクが注がれていても、深い香りのコーヒーが注がれていても、どちらもしっくりくる色合い。昌子さんのつくる器は、白と青のあいだにある色の美しさ、きりっとした磁器の佇まいと柔らかな手の温もりを感じる、不思議な魅力があります。

その独特の印象がどこから生まれてくるのかを知りたくて、昌子さんが暮らす花巻市大迫町を訪ねました。国道からしばらく奥に入った集落の先に、住まいを兼ねた工房があります。もともと、香川県出身の昌子さんですが、器をじっくりつくる環境を岩手県内で探し、あちこち足を運んだ末に決めたのが現在の場所だったといいます。002 小高い場所にある工房から眺める早春の風景。

「つくるもののイメージが生まれる原泉は、暮らす環境に依るところも大きいですね。制作に集中できる環境である、それはもちろんのこと、ぱっと顔をあげた時の風景や、雪の舞う様子、葉っぱの形など、そこに在る空気そのものも……。暑さが苦手なので、岩手は自分に合っているのかもしれません」。

訪れた4月上旬。家の裏手にはまだ雪を少しまとった山々が広がり、秋に落ちた葉っぱが、雪溶けて顔を見せ始めていました。大きく息を吸い込むと、きりっとした空気が鼻を通っていくのがわかる、そんな静かな場所です。

洗練された中に、「手」を感じる仕事を。

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「丸い月」をはじめ、昌子さんがつくる器はカップ、小鉢、多種多様な大きさと深さの皿、茶碗、ピッチャーなど種類が多く、それぞれに個性があります。いつも「盛る料理が映える器であること」を頭に置きながら制作に臨む昌子さん。洗練された中にもどこか、”手のあと”が感じられるようなものをつくりたいと話します。

カップ類は様々なアレンジでつくってきましたが、底面が丸みを帯びた「丸い月」は2年程前から。ちょっとおもしろいなという感じで試したところ好評で、定期的に制作しています。

「いつも器のことを考えている(笑)。それは、新しいものにチャレンジという感じでもなく、『いつも何かを探している』感覚かな。一つの型をベースにしても、土の種類によっても印象が変わりますし、高さ、釉薬などを少しずつ変えていく面白さが無限にあるんです」。

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実際に「丸い月」の成形作業をみせていただきました。つくるものによって、ろくろと手びねりとそれぞれ手法は変わりますが、マグカップの場合は、手びねりの一つである「たたらづくり」で制作しています。

「いくつもあるやり方のなかで、『たたらづくり』は、人の手を感じられる作り方の一つ。端正できぱっとした美しさを持つ『ろくろづくり』の器とも違った魅力があります。薄い土板を貼り合わせてつくるので、組み立ての面白さもありますね」。

毎日使う、どこにもない食器をつくる。

そんな風に会話をしながらも、昌子さんの手は止まることなく準備を進めます。磁土は水を吸収しやすくて乾燥しやすく、いったん制作に入ったら手早く仕事を進める必要があるので、作業に入るまでの計画が大事。師である白磁作家の荒木茂光氏と訓子氏は、あくまで『食器』をつくっているのであり、つくるものに”味”を求めないこと、基礎をしっかりと、入念な作戦を練って臨むことを、徹して教えてくれたといいます。

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まずは、制作予定数に合わせて用意しておいた板状の土を、決めた大きさにカットし、接合しやすく凹凸(刻み)をつける。型にそって筒状にして繋ぎ合わせる。それから底面をつけあわせる……。 「一つひとつ積み上げられる工程と丁寧に向き合った結果は、仕上がったものに表れる」と昌子さん。

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たとえば、底面と側面を繋ぐ作業も、1カ所に力を集中させないように。無理な力をかけずに、そっと小さく繰り返していきます。滑らかな仕事になるかどうかは、後々土が覚えているのだと……。

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この日工房には、数日後に開かれる個展に向け、本焼きの窯から取り出したばかりの器たちがずらりと並んでいました。器が放つ色と光は、どこか朝の自然光にも似ているし、宵の月明かりにも似ていて、やはり白と青のあいだを揺らいでいるよう。

――毎日使える どこにもないうつわを  つくり続けていこうと はじめた工房です――

昌子さんの器が、透明感を持ちながらも眩しすぎず、どんな料理ともケンカすることなく美味しそうに見える理由はきっと、この「クラフトマンスタジオ冬扇」の栞につづられた言葉どおり。

「そこに盛ったものがキレイに見えるように、日々食卓に乗せた器を見ながら、反りの角度、大きさなど、実験を繰り返しています」と自身が言うように、料理をどう引きたてられるかを、常に試し続けているからに他なりません。

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関連トピックス: マグカップ「丸い月」取扱開始のお知らせ

  • 髙橋昌子さん  / クラフトマンスタジオ冬扇
  • 香川県観音寺市出身。大阪市立大学卒業後、大阪での設計事務所勤務を経て、白磁作家の荒木茂光・訓子両氏に師事する。制作環境としての岩手に魅せられ、2000年6月に花巻市大迫町へ移住し、窯を開く。カップ、皿、片口などさまざまな器づくりを手がけ、東北をはじめ各地で個展や企画展を開催。岩手県では数少ない磁器作家。

〒028-3201 岩手県花巻市大迫町内川目25-55

0198 - 48 - 5677(Tel + Fax)
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